夕日が町に影を落とす。

人々が町から徐々に姿を消し、静寂がそこに満ちてゆく。

そんな町の程なく近い小高い丘で、少年が三人、ただ夕日が沈んで行くのを見つめていた。

「…。」

三人は一様に、無言だった。

一人は地べたに座り、一人は石の上に腰掛け、もう一人は立ち。

それぞれに違う姿勢で、それぞれ異なった背格好だったのに、

夕日に照らされ、髪が緋に染まっているのは一緒で。

髪がサラサラと風に揺れるのも、また一緒で。

まるでそこにいるのが当然かのように、三人は静かな風景に溶け込んでいた。

そんな静けさの中、ポツリとつぶやかれた声が一つ。

「今日も、楽しかったね。」

ふんわりと、まるで柔らかな風のような声。

その声をあげたのは、地べたに座る、穏やかそうな少年だ。

言葉の通りに、嬉しそうに微笑みを浮かべる。
そんな彼の言葉に対し、

「…ま、悪くはなかったな。」

と、少し生意気に答えを返したのは、立っていた少年だ。

夕日から視線を外しもせず、少年を見ようともしない。

けれど、そんな彼に対して、穏やかな少年は表情を悪くするでもなく。

彼が立っている後ろを向いてクスクスと、楽しそうに笑う。

そんな少年の態度に、恐らく一番年長者であろう言葉を発した少年は、何も言わない。

たいして気にしていないのか、それとも言っても無駄だと思ったのだろうか。

どちらにしても、二人の間に信頼関係があるのは、確かだった。

そんな彼らの話に入らず、石の上に座る少年は、ただ夕日を見上げている。

まるで射落としてしまいたいような、鋭い目線で。

しかし、そんな彼の表情も気にせずに、

「楽しかったよね?」

と、件の微笑みを浮かべた少年は、表情を崩さないまま彼に問い<かける。

石に座っている少年の表情は、年齢にはいささか不釣合いなもの。

しかし、それがけして怒っているからではないと、彼は分かっていた。

彼は、知っているのである。

いくら目が大人顔負けに鋭かったとしても、口元がへの字に曲げられている、ということを。

「ねぇ?」

少年は、少し石に近づいて、それに座った少年に話しかける。

するとその少年は観念したかのように、視線を伏せてこう答えた。

「うん、楽しかったよ。けど…。」

「けど?」

「また、一日が終わった。」

その一言に、笑っていた少年も、その笑みを消す。

少年の横顔を見つめ、視線を草むらへと映し、そしてまた夕日を見つめる。

「…そうだね、終わっちゃったね。」

と、先ほどとは一変して、悲しそうな表情で、それを見上げる。

少年達は、いつでも会えるというわけではない。

少しずつ違う年齢と、少しずつ違う身長。

それらが比較にならないくらい、彼らの境遇は違っているから。

共通項はあっても、また三人で一緒に、こうして自由でいられる時間は、幼い彼らにとってはとても少ない。

あるときは大人に縛られ、ある時はその境遇自体に縛られる。

町の、ほんの限られた一部で会うのは、それほど苦ではいかもしれない。

しかし、こんなに遠くに、たとえ普通の子供達にとっては普通に行く場所で遊ぶ事は、彼らにとって困難だった。

だから、次はいつこの場所に来られるのか。

この夕日と静けさを感じられるのは、いつになるのか。

その途方の無い期間を知ってしまい、彼ら二人は黙り込む。

そんな二人の背中を視線の端に捕らえながら、立っている一番背の高い少年は夕日を見上げる。

赤く赤く輝くそれは、西の山々へと沈んで行く。

後数分で、完全に沈むだろう。

その時、彼はこう口を開いた。

「行きたくなったら、来ればいい。」

そんな彼の言葉に、彼よりも年少の二人はキョトンと声の主を見つめる。

けれど、彼は自分達の方を見ずに、ただ夕日を見上げる。

いつもより静かな、けれどいつも通りのその態度。

彼らはソレをみて、笑い声を上げていた。

それを聞いた、年長の少年はようやく夕日から視線を外し、

自分も、年相応の微笑を浮かべる。

「…そうだよね、来ちゃえばいいんだよね。」

単純で、明快な答え。

彼らしいワガママな答えと、彼らしくない論理が通ってない答え。

けれど、少年達はその答えが一番しっくり来て。

そこに居た三人ともが、その意見に賛成だった。

やがて、立っていた少年はそのまま町に向かって歩き出す。

後ろなんて向かないで、ただ前だけを見て。

そんな彼の後ろに、すぐ穏やかそうな少年が続く。

彼の背中を追って、町を目指す。

大分二人が歩いた後、

突然の行動に思考が追いつかなかった、石の上に座っていた一番年少の少年は、

「…待ってよ!」

と、慌てた声とともに二人の背を目指して、走りだす。

そんな彼の声に、二人の少年は足を止めて、彼を待つ。

そして彼が追いついたとき、彼らは三人で手をつなぎ、歩きだした。

ゆっくりと、ゆっくりと。

同じ歩調で、ゆっくりと。

同じ緋に、照らされながら。














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