第一章
 1 懺悔します。


どうもみなさん、こんにちは。ご存知東条愛璃でございます。
 
こちらも皆様ご存知でしょうが、先ほど玄関で双子の姉の裕璃と話していたら、なぜか突然したが消えて穴の中に落ちたわけですが…

落ちてます。

ええ、今もです。

しかも、遊園地で見かけるなんとかフォールのようにシートベルトもなく、さながらコードレスバンジー状態でございます。

そしてもっとも注目すべき点が、辺りが真っ暗闇なおかげで風が流れと落下感しか分からず、どんな酔いやすい方でも酔わない仕様になっているのでございます。

「わ〜…革新的。」

と、一人でズレたことを考えてみる。

…ああ、ここに裕璃がいたら、

「何言ってるの?!早くどうにかしなきゃ!!」

って突っ込んでくれるんだろうけどなぁ…。

あいにく、穴に落ちたのは私一人らしいし。

たった一人の状況で一人ボケツッコミなんて悲しいことができるほど、私は人間ができていません。

精進せねばなりませんなぁ。

「って、こんなこと考えても仕方ないよねぇ。」

いつまでも現実逃避気味では、先に進むものも進まなくなるだろう。

って、これもボケツッコミか?

…まぁ、いいや。

とりあえず私は、頭の中に響いた裕璃っぽい台詞にしたがい、姿勢を変える。

足だけで落下するのを、ちょうど足を伸ばして座っている状況に変えたのだ。

これなら、もしも地面に落下することがあったなら多少の衝撃は和らげる。

「…ま、落下してもこのスピードじゃ間違いなく死ぬような気もするけど。」

やらないよりはマシ、である。

さて、次に何をするか、考えてみよう。



……

………

…………

……………

「…って、何も思いつかないし。」

まぁ、当然と言えば当然だろう。

というか、突然穴が現れて落ちてるのに、何か打開策が見つかるやつのほうがおかしい。

私は学校の成績も中の上な一般ピープル、英語は嫌いだがどちらかといえば文系。

なにやら物理学やら地学やら次元数やらが関連してそうなこんな状況の打開策なんてわかりっこない。

私はため息を吐いて、右手で頭をかきながら呟く。

「てか、なんでこんなことになってんのかなぁ。」

…私が玄関にいたのが悪かったとか?

いやいや、これは理不尽すぎだろう。いくらなんでも。

私は首をぶんぶん振ってから、次の考えを廻らす。

「…じゃあ、誰かの呪い?」

ああ、これなら多少身に覚えがある。

というか、悪いことをしたことがないといった人のほうが珍しいだろう。

私だって些細なことはしてきた。

二年前、裕璃のお気に入りのシャープペンを勝手に借りて無くしたり、
五年前になんとなく格闘技の真似事してたら壁に穴あけたから絵で隠したし、
七年前にお父さんの会計書類を墨汁こぼして黒く染めてそのまま隠したし、
十年前にお母さんの口紅つけてお父さんのYシャツにキスマークつけたし、
十三年前にじいちゃんの真剣振り回してたらすっぽ抜けてお父さん頬に掠ったし。

覚えている限りでこのくらいあるのである。

実際数えたらもっとあるだろう。

…って、お父さんの被害が多いなぁ…。

そういえば、お父さん昔から苦労性だったっけ。

思えばお母さんのブラック降臨被害率が一番高かったの、お父さんだったし。

…大体謂われなきことだったよね、私と裕璃のイタズラが原因とか。

しかも会社の部下がなってないとも言ってたし。

色々心労とか溜まってたんだろうなぁ。

「今更だけど、ゴメン…お父さん。」

私はこれを期にお父さんに謝ってみた。

いろいろ悪いことをしてきたんだなぁ、という気持ちを込めて。

は?!ってことはこれは父親の怨念のせいか?!

……………

「…無理だよね。あんなヘタレに。」

というか、そんなことしたらお母さんに滅殺されるだろうし。

考えた私が馬鹿だった。

…いや、まてよ?

「そんなお父さんを可愛そうに思った神様が私に天罰を与えたとか?」

ああ、すごくありそう。

彼はなぜかエライ人に好かれる人だったからなぁ…。

社長とか、裁判長とか、神主さんとか、世界の大富豪とか。

おかげで勤めてた銀行で結構出世してたみたいだしね。

…殆ど同情的な友情だったけど。

まぁ、何はともあれ、それが原因というのなら、
謝ってしまうのが最善の方法だろう。

即行動派の私は、勢いよく手を合わせて目をつぶって言ってみた。

「…本当にごめんなさい、神様!
でも、あの当時はふざけてやっちゃったことっていうか、やろうと思ってしたことじゃないんだけど、
多少大人になった今、ちょっと悪いかな〜と思ってみたりみなかったり!
ていうか昔の事でしょ、…ってそんなことが言いたかった訳じゃなく、
いい加減私は外に出たいんだってば!!
神様ならそれくらい許してよ!」

…って、これじゃ謝ってないし!!



そう私が思っていると、つぶっていた瞼に焼け付くような感覚を覚える。

手をかざしながら、瞳を開けてみると、見えるのは私の頭上の遙か上の光。

それが、私より速く動いているのか、徐々にせまってくるのである。

「…もしかして、あれが脱出路?」

ああ、でも天からのお迎えの光って可能性もなくはないか。

真っ暗闇をひたすら落ちてるのは、実は地獄への道だったのかもしれない、

今更ながら、私はそんなことを考える。

「…でも、まぁ何でもいいか。」

とりあえず、何かが起こるかもしれないし。

起こらなかったら起こらなかったで別の方法考えればいいしね。

私は、そんなことを考えながら降りてくる光を見つめていた。



 確実に先ほどよりもせまってくる光。

 とてもとても強い光。

 とても強い光なのに、どこか寂しげな光。

 そんな光が、ついに私に衝突する。

 その瞬間、私が感じていた落下間はなくなり、代わり感じたのは浮遊感。

 まるで雲に包まれて浮いている、そんな感覚。

 私はその心地よさに、思わず身を任せた。




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