第二章
1 似合わない。
…とまぁ、そんな感じで結構フレンドリーに話してた私たちだったけど、
さすがに、私にそろそろ限界が近づいていた。
まぁ、あっちでは大丈夫だったんだけど、こっちに来たとたんなんか風当たりが厳しいというか。
腕とか足とかが風通しがいいというか。
「…ふ…」
「「『…ふ…』…?」」
要するに、
「…クシュッ!!」
くしゃみが我慢できないほど、寒かったのである。
今まで我慢してきたそれは、その時間の分だけ大きい声だったが、私は口に手を当てることを忘れない。
乙女のエチケットというやつだ。
―――――自分が乙女かどうかは私には分からないが。
「「………。」」
私のその姿を、男性二名様はじっと見ていた。
いや、見ていたというよりも呆然としていたと言った方が正しい。
今までちょっと深刻な話をしていただけに、このタイミングでこのくしゃみはありえなかったのかもしれない。
まぁ、確かに誰かにこのタイミングでやられたら、私でもちょっと唖然とする。
「…そういえば…。」
私が寒くて左右の二の腕を反対側の手でさすっていると、レクティが声をかける。
「ん?」
「なんだってそんな格好をしているんだ?」
私は彼の言葉に、自分の格好を見直した。
オレンジのキャミソールにジーンズ生地の膝丈より少し短めのスカート、そして何故かスリッパ。
夏休みの部屋着としては、私の感覚がずれていないならまぁ普通だろう。
「…何でって…お休みだったから。」
「…休みだと君はそんな姿をしているのか?寒いだろう。」
「さっきも言ったけど、夏休みだったし…ックシュ!!」
私はもう一回、口を押さえてくしゃみをする。
「…ああ、そういえばそんなことを言ってたな、お前。」
と、やっと気がついたのかディオが納得したような声を出す。
「…確かに、夏ならそういう格好をしている人々もいるようだが…。」
そう言いながら、彼は自分の上着を脱ぎ始める。
「ここの季節は今は初春だぞ?」
そう言いながら、彼はその服を私の方へと差し出す。
「…?え、何?」
私がその行動にちょっと戸惑っていると、彼はため息を付いて、
「着ていろ。」
と言って、正面から私の背にかけてくれた。
私は、そんなレディーファースト的行動には慣れていない。
だから、不覚にも少し照れてしまったのだが、彼は余裕の表情だ。
…何か悔しい。
「でもこれだと、レクティが寒いでしょ。」
私が襟の端のほうを引き寄せながら言うと、彼は小さく笑いながら、
「だが、君のほうが寒いだろう?」
「でも、これレクティのだし。」
「婦女子がいつまでもその格好で居てもらうのは、少々気が引けるからな。」
と言った。
ディオもそれに賛成したように、
「…確かに、そうだな。」
と言って微笑む。
…彼らは意外に紳士なのかもしれない。
「…で?どこに向かってるの?」
私たちは、その後彼らが部屋に置いていた荷物を手に、外へ出た。
ディオの手にはキャリーバックとボストンバック、レクティの手にはキャリーバック二個が握られている。
しかし、私の手ぶらだった。
一応、荷物をどれか持つと自己主張してはみたのだが、
「女子に荷物なんて持たせられるか。」
…ということらしいらしい。
なんというか、慣れていない人にはぶっちゃけ気持ち悪いくらいの優しさだ。
私の問いに、レクティはため息を付く。
「…言っただろう?」
「何て?」
「僕の父に聞けば多少のことは分かるかもしれない、と。」
ああ、そういえばそんなことも言っていたような気がする。
「と言うことは…レクティの家に行くの?」
「ああ、そうだ。」
と、今度はディオが答える。
「へ〜、そうなんだ。どれくらいかかるの?」
やはり電車とか新幹線とか、そういったものを使うのだろうか。
…いや、でもちょっと待て。
私たちは、町の少し大きめの道をひたすら歩いているのだが、
やはりその周りに広がる家は、私が思うにイギリスの町並みに近いファンタジー系のもの。
こんな家が点在しているのに、魔法が存在している世界なのに、
果たして電車は存在しているのだろうか?
いやそもそも、先ほどから馬車などの人力・獣力の乗り物しかみていないし、無いと考えるほうが妥当なんだろう。
「そうだなぁ…あと十分くらいじゃねぇの?」
「近っ!!」
そのありえないほどの近さに、私は思わずディオにツッコミを入れてしまう。
何のために外に研究室があるんだか分からないではないか。
「それならいくら配給されたからって、そっち使わないで家で勉強してた方がいいんじゃないの?」
私は思ったことを質問してみると、ディオが上を向きながら、
「…確かにそうなんだが…、そっちでやったほうがはかどる気がして、な。」
と言う。
…まぁ、確かに現代日本でも家で勉強するよりも図書館で勉強した方がはかどるという人間は山ほどいる。
勉強用に用意されたスペースとくつろぐために用意されたスペースを混同できない、まぁそういった感じではないだろうか。
「…しかし、部屋支給なんて随分豪勢な学校だよね。」
寮じゃあるまいし、随分羽振りのいい学校である。
「ああ、それは全員に支給される訳じゃな…。」
彼からそれ以上、言葉を発せられることは無かった。
何故なら、
「とりゃ〜!!」
「うわっ!!」
ドサッ
ディオの声をさえぎるように、誰かが彼に飛び掛ってきたからである。
しかも、後ろから飛び掛られた上に彼はボストンバックとキャリーバックを一個ずつ持っていた。
当然、バランスは取れずにそのまま地面と仲良しになる結果となってしまったのだ。
私とレクティは、突然の出来事に思わず口を閉ざす。
――――――世の中って、ギャグマンガのようなことが結構転がってるのね…。
レクティはどうだか分からないが、私はそんな事を考えた。
まぁ、ディオは私のおかげで、初めからギャグノリが多かったけれど。
そんなことを私が思っているとディオは腕立て伏せの要領で状態を少し上げ、顔だけを背の方へと向けた。
「…お前なぁ…。」
その声には呆れが多々含まれていたが、その人物は気にもせず、
「えへへ〜。」
と、とても嬉しそうな声を出して、ディオの上から避けて、立ち上がる。
私は、その時彼女の顔立ちを初めて見た。
卵形の綺麗な顔の形、きめ細やかな白い肌、シャンプーモデルのようにサラサラな金のロングヘアー。
さらに瞳は、持ち主の明るさを宿したような翠色の瞳で、年齢は私より少し下ほど。
美形観察を趣味に持つ私としては美形度数80はあげたいほどの美少女だった。
「これくらいで倒れる方が甘いよ?お兄ちゃん。」
声すら、小鳥が鳴くような可愛らしさである。
…
ん?
まてよ?
お兄ちゃん…って、今言ったよね…。
ということは、二人は兄妹なんだろうか?
言われてみれば、髪の色といい、瞳の色といい、美形っぷりといい結構似ている。
「オレの今の状況見てもそれが言えるのか?ミント…。」
「『剣士たるもの常に油断するべからず』よ、お兄ちゃん。」
妹さんらしき人(ミントさんと言うらしい)は、ディオに向かって指を振りながら言う。
ちょっと偉そうなんだが、とても可愛らしい。
「…はぁ…、まったく。」
ディオはため息を吐きながら立ち上がった。
その様子から察するに、彼女はいつもこんな感じで、もうすでに諦めているのかもしれない。
するとそこに、もうひとつの声が響く。
「ミント!!あなた速すぎるわよ!!」
怒りを含んだはずの声なのに、とても凛とした声だ。
耳に届いた瞬間、私たちは瞬間的にそっちの方へと振り向く。
そこには、こちらの方へと走ってくる女の子が一人。
「ごめん、カトレア!!」
ミントさん(推定)は、その人物に向かって手を振る。
彼女はそのままミントさんのほうまで走ってきて、少し腰を落として肩で息をした。
遠くからでも分かっていたのだが、彼女も結構な美少女だ。
ちょっとウェーブのかかった濡れ羽色の髪、瞳はレクティのようなダークブルー。
少々切れ長の瞳で高飛車な感じも受けるが、後三・四年もしたらそれが女性的魅力になってますます綺麗になるだろうことが伺える。
元気系美少女のミントさん(おそらく)とは違い、お嬢様系美少女だ。
二人とも同じ服を着ており、白いブラウスに赤いリボン。
黒のブレザーに白いラインが入っており、袖が少し膨らんでいて、肩に近い二の腕の部分が白くなっておりその中に黒い十字架。
そしてやはり横スリットが入っており、スカートも黒。
感じる印象から、ディオたちと同じ雰囲気が漂っているので、おそらく学校の制服女性バージョンという感じだろう。
カトレアさん(予想)はミントさん(推定)に少々にらみつけると、彼女はすまなそうに目を閉じて手を合わせる。
そんな彼女の様子に、カトレアさん(おそらく)はため息を吐いてからレクティへと向き直った。
スカートの両端を持って、会釈をするというオマケ付きで。
「ごきげんよう、お兄様。」
「…といっても、今日の朝ぶりだがな。
学校は楽しかったか?カトレア。」
「はい、とても。」
と、二人はにこやかにとてもハイソな感じで会話をする。
…って、こっちも兄妹ですか。
いいなぁ、美形兄妹ズ。
「整理は出来ましたの?」
「ああ、これで最後の荷物だ。」
「そう、それはよかったですわ。
…あら…?そちらの方はどなたですの?」
カトレアさん(きっと)は、私のほうを向きなおる。
彼女はそうしてから、私の頭からつま先まで、マジマジと見つめた。
…まぁ仕方ないだろう。
春先に、おそらく実の兄のものである上着を着た下は寒々しいキャミソール、そして微ミニなスカート。
しかも靴は外ではあるまじきスリッパ、である。
とても奇妙な出で立ちなのは、自分でも分かっている。
「えっと、初めまして。
アイリ=トージョーです。」
「あら、ご丁寧にありがとうございます。
私はカトレア=トリーティア。レクティお兄様の妹ですわ。」
と言って、先ほどのように私にも会釈した。
…先ほどのディオの土下座モドキといい、こういう挨拶って一方的にやられると結構焦るもんだね。
私がそう思っていると、今度はディオのほうにいたミントさん(いい加減書きつかれたが、推定)が、私の方へと振り返る。
「あ、ごめんなさい。挨拶しないで…。
私、ペパーミント=ローレンシア。よろしくね!」
と言って、彼女は右手を差し出してきた。
私はその手を握って、
「よろしくね、ペパーミントさん。」
と言うと、彼女は一瞬不満げに口を歪めて、
「ミントでいいよ、お義姉ちゃん。あ、敬語も使わないでいいからね!」
と、すぐにとても可愛らしく笑い、言った。
…
…って、お義姉ちゃん?!
「え?!ちょっと待って!!なんでお義姉ちゃん?!!」
私が焦りながら聞くと、彼女は手をひらひらさせながら言う。
「隠さなくてもいいよ〜。
ディオお兄ちゃんと楽しそうに話してたの、私見たもん。」
「いや、だからってなんで…」
私がお義姉さんになるの?!
私がそう言う前に、彼女はとてつもない勘違い思考を発揮してくれた。
「え?だって、ディオお兄ちゃんの彼女さんでしょ?」
「はぁ?!」
これには、ツッコミ気質のディオが抗議の声を上げた。
「なんでコイツがオレの彼女になるんだ?!」
「え〜?だって、私お兄ちゃんが女の子連れてるの初めて見たもん。
だから、今から親にでも挨拶しに行くのかなぁと思って。」
その言葉に、ディオは絶句した。
いや、すごい想像力かつボケだね、ミントちゃん。
私、とても拍手したい気分だよ。
だが、このままほっといたらディオに失礼な気がしたので、私はミントちゃんに話しかけた。
「いや、ゴメンねミントちゃん。私はディオの彼女じゃないっす。」
「え?そうなの?!」
「うん。」
「…そっか…残念だなぁ…。
お姉ちゃん、欲しかったのに…。」
彼女は、とても悲しそうな表情で、残念そうな声を出した。
その様子が、まるで捨て犬を思い出させるような可愛らしさで、
私は思わず、ミントの肩に手を置いた。
「…?」
私は不思議そうに見上げてくるミントに、にっこりと微笑みながら言った。
「お義姉ちゃんにはなれないだろうけど、お姉ちゃんにならなれるわ!!
さぁ、あなたのお母様とお父様にレッツ養子縁組の相談を…!!」
「って、さらにマテお前!!」
ビシッ…と、
私後頭部にディオのツッコミチョップが入った。
おそらく全力ではないそのチョップは、私にはまだ少し痛い。
私は、ディオのほうを上目遣いで見上げた。
「…何するのよ?!」
「何する…って、お前がふざけたことを言っているからだろうが!!」
「ふざけてないわよ!全力で本気!!」
「なお悪いわ!!」
「だって美少女の悲しそうな顔なんて、私見たくないし!!」
「だからって突然オレの妹になろうとするなぁ!!」
「それは不可抗力!わたしがなりたいのはミントちゃんのお姉ちゃんよ!!
ね〜?ミントちゃん。」
「え?…うん。お義…アイリさんみたいなお姉ちゃん欲しい!!」
「ミントちゃん、もうお姉ちゃんって呼んでくれてオールオッケーよ!」
「本当?嬉しい!お姉ちゃん!!」
「って、ミントも抱き込まれるなっ!!」
「だってお姉ちゃん欲しいもん!!」
「私もミントちゃんみたいな妹なら、五人でも十人でも大歓迎よ!!」
「「ね〜。」」
と、私たちはお互いの人差し指をあわせながら、声をそろえて言う。
そんな私たちの様子に、ディオは完全に脱力した。
「…初対面なのに、なんだってこんなに息ぴったりなんだ…?」
と、ポツリと漏らしながら。
そこに、
「二人とも、いい加減にしないか。」
と、冷静な声で割り込んでくる影が一つ。
もちろん私の最終ツッコミ防衛ライン(予定)のレクティだ。
「いや、だからふざけて…」
「漫才をしている時点でふざけている。」
…う…、さすが防衛ライン、的確なツッコミで何も言い返せない。
さすがはインテリ美形、といった感じである。
これ以上、私はこねる屁理屈が見つからなかったので、
「…まぁ、ごもっともデス。」
と、素直に負けを認めると、彼は小さくため息を吐いた。
「…と、いうことは…、お兄様たちが失敗してしまわれたから、アイリ様がこちらにいらした、という訳ですの?」
カトレアちゃんの総まとめに、私は
「うん、そういうこと。」
と言って、先に進みながら相づちをうった。
あ、因みに何故さん付けからちゃん付けになったのかというと、
「ミントが『ちゃん』なのに、私が『さん』なのは何か不公平ですわ!!」
と、言われたからである。
お嬢様系なのに、結構頭は柔らかいんだね、カトレアちゃん。
「それって…お姉ちゃん迷惑だったでしょ?」
と、今度はミントちゃんが不安そうに言うと、
「「ごめんなさい、私のお兄ちゃん(様)が…。」」
と、二人とも声をあわせて言った。
――――― 兄が兄達なら妹も妹達で息ピッタリ、である。
私はそんな二人の様子に苦笑しながら、
「いや、別に大丈夫。お休みだったしね。
…そりゃちょっとは寒かったけど。」
と、答える。
カトレアちゃんはその答えに、「ああ、だからお兄様の上着を…」と言って、何か納得したようだ。
しかし、逆にミントちゃんの表情は疑問に満ちていた。
「でも…スリッパのままでよかったの?」
その疑問を解消するためか、彼女は私に問う。
しかしその答えには私ではなく、彼女の兄であるディオが、
「…さすがに靴は置いていなかったんだ。」
と、相変わらず重そうな荷物を持ちながら答える。
確かに、替え様の靴が研究室においてある、という図はちょっと間抜けな気がする。
備えあれば憂いなしだが、いつまでも使われることのない靴が置いてあるのは、絵的にどこか物悲しい。
もしかしたらサンダルくらいならあったのかもしれないが、まぁスリッパとあまり変わらないだろうし。
スリッパでも十分に歩けているので、別段着にはしていなかった。
「別にスリッパでオッケー!歩けるし!」
と、私が思っていることを口に出すと、
「…オレは結構気になるぞ?」
と、私の目を見ながら言った。
本当に貴方、結構紳士だよねぇ…。
しかし、無いものは無かったのだから仕方がないと私は思っていたりする。
なので私は、彼の肩をポンポンと叩きながら、言った。
「男なら気にしない!」
「男だから、気になるんだよ。」
はぁ…と、彼はため息を吐いた。
…何が不満なんだ?
「確かに、気にはなるな…。」
と、今度はレクティまでもが彼の意見に賛成する。
レクティもディオと同類なんだろうか?
さすが幼馴染。
だが、私には本当にどうでもいいことだったので、
「二人とも、今まで気にせず歩いていたでしょ。」
と、すかさず突っ込んでみる。
そんな私の言葉に、二人は顔を見合わせて、
「…それはそうなんだが…。」
「なんか…なぁ…?」
と、なんとも歯切れの悪い言葉を返してきた。
本当に、一体突然なんなんだろう?
「…まぁ、そんなどうでもいいことは置いといて。」
「どうでもよくは無いんだが…。」
「いや、レクティはそうかもしれないけど、私は正直どうでもいいし。
それよりも早くレクティの家に急ごう。うん。」
と言って、私は先ほどよりもスピードを上げて歩きだす。
いや、正確には歩き出そうとした、だ。
歩く前に手をつかまれてしまったのだから。
「…何?カトレアちゃん。」
と、不思議に思って聞く私に、カトレアちゃんは左の方を指差して、
「お兄様と私の家なら、ここですわ。」
と言った。
私はその言葉を聴いて向き直り、その方向を見る。
私は、数秒固まった。
そこにあったのは、予想通り洋館。
一見しただけでファンタジー雰囲気なこの世界では、割とポピュラーな佇まいだろう。
が、しかし。
私の目の前に広がるそれは、予想外のものだった。
庭だけで日本の普通の庭付き一戸建てが二軒入りそうである。
しかも、その奥にある家は、庭と大体同じサイズだろう。
はっきり言うと、かなりの豪邸である。
「…大きいし。」
「普通だろう?」
と言うレクティに、私は怪訝そうな目線をおくろうとして、やめた。
先ほどは喋りに夢中になっていて気が付かなかったが、ここの町並みは似たような家が多い。
家の色などではなくて、サイズがである。
先ほどまで歩いていた通りは、日本の東京辺りで見られる大きさの家が所狭しとならんでいたのを見ると、
あっちが下町でこっちは高級住宅街、といったものなのだろうと勝手に推測する。
「…どおりでカトレアちゃん、育ちがよさそうだと思ったら…
お嬢様だったのね…。」
と言って、彼女の方にポン…と手を置く。
確かに、とてもそれっぽいカトレアちゃんは「ですわ」口調だし、お金持ちなら私の姿に驚くのも無理はないだろう。
おそらくドレスとかを着慣れていて、キャミソールで動くことははしたない、とかいう家の教えがあるのかもしれない。
カトレアちゃんは、そんな私の行動に一度きょとんとして、
「あら…、そんなことありませんわ。」
と、手に口を当てながら笑う。
だが、その行動がよりいっそうお嬢様っぽさをかもし出しているのに気が付かないのだろうか?
「いやいやいや、この家の大きさはお嬢の住む家だ、うん。」
「(お嬢…?)…でも、アイリ様?
私達の家よりも、ディオ様とミントの家のほうが大きいですわよ?」
…ここより大きい家?
…ディオが住んでる?
「うっそだぁ。」
と、私は手のひらを縦にパタパタさせる。
そんな私に、
「いや、本当だ。僕達はただ単に父と母の稼ぎがいい…というだけだが…
ディオ達の家は歴とした貴族だからな。」
と、レクティが至極真面目に返してくる。
私はそれを聞いて、ギギギギ…という効果音が様になっているであろう様子で、首をディオのほうに向けた。
「…ディオ〜…。マジですか…?」
私のその問いに、彼は頬を掻きながら、
「…まぁ、一応。」
と、答えた。
そんな彼に私は正直に、
「似合ってないねぇ…。」
と呟くと、
「オレもそう思う。」
と、彼も呟いたのだった。
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