第二章
3 裕璃がいるから寂しくない。
「ってことは、アイリちゃんって異世界から来たのか?」
「ええ、おそらくそうなんじゃないだろうかと。」
私はアスガルドさんに合図地を打ちながら、おいしい紅茶に舌鼓をうっていた。
あの後、シティロークさんがいつまでも立ち話というのは、と言って応接間に案内してくれたのである。
ここでカトレアちゃんが紅茶と何かおいしそうなお菓子を出してくれて、それを頂きながら今までの経緯を説明したのだ。
「へ〜、異世界にも人間っているんだなぁ…。」
と言って、アスガルドさんは妙に感心しながら私を見ている。
ディオはそんな父を見て、ため息を吐いた。
―――――おそらく呆れからのものだろう。
その間、カトレアちゃんはあらかじめ入れておいた残りのお茶を私のティーカップに注いでくれる。
「ありがと、カトレアちゃん。」
「いえ、当然のことですわ。」
そう言って、彼女はにっこりと笑いながら廊下へと出て行った。
その微笑みは、高飛車な感じが抜けてとても少女らしくて可愛かった。
ちょっと引き止めてぎゅっと抱きしめたくなるが、まぁこの場の雰囲気を壊すのもどうだろうと思って泣く泣く己を殺す。
「…それで、彼女を召喚したときに使った本と言うのは、…どの本の事だ?」
シティロークさんは、レクティに向かって問う。
彼は父親の視線を受けてこくりと頷き、背中の方から一冊の本を取り出す。
私はその本を、覗き込んだ。
文字が金糸で縫い付けられている、少し古めの赤い本である。
「へー、これがそうなんだ。」
一度話題に上っているが、よく考えたら一回も見たことがなかったから。
しかし、異世界っ子な私が見る分には、ちょっと古ぼけた本としか思えなかった。
…もちろん字は読めない。
シティロークさんはレクティからそれを受け取って、数秒間表紙を見つめる。
「父上、この本はなんなのですか?
僕達には見当もつかなかったのですが…。」
だったら魔方陣描くなよ。
そうは思ったが、口には出さなかった。
人間誰しも好奇心に負けることがあるということは、私は重々承知だし。
シティロークさんは息子の言葉を聞きながら、本をパラパラとめくる。
そしてしばらく読むと、パタンと本を閉じた。
「…古代文字だということは分かった。」
「って、これお前の本じゃねぇのか?」
…ツッコミできたんだ、アスガルドさん。
私はてっきりボケ100%の人かと思ってたよ。
…まぁ、気持ちは分からないでもないけど。
私達だってシティロークさんの本だから彼が中身を知っていてもおかしくない、と思って尋ねたのである。
本の持ち主であるのに、何で知らないのだろう?
そう思って、シティロークさんに視線を送る。
「…確かに、これは私の本だ。だが、これは私が十三歳の誕生日の時に母から渡されたのだが、中身が読めずにいてな…。
それでとりあえずしまっておいたのだが、そのまま忘れていた。」
「オイオイ…、お前が忘れるなんて天変地異の前触れか?」
アスガルドさんは大げさな表現で彼を揶揄する。
だが、結構私の心の中でのツッコミとマッチしていた。
…やっぱりアスガルドさんとは気質というかタイプが似ているのかもしれない。
「…どうにか解読することは出来ませんか?父上…。」
レクティは自分の父親に頼み込むように聞く。
シティロークさんは相変わらず本の背表紙をじっと見つめ少し考え込む。
「…そうだな、とりあえずお前の卒業式までに写本をしてはみるが…。
専門ではないから、私の力では解読できるかどうか分からない。」
「…そうですか。」
レクティとディオは、それを聞いて顔を曇らせる。
欲しい情報が得られなかったことへの落胆と、おそらく私への責任を感じてしまってるのだろう。
私はそんな辛気臭い顔をしだした二人の後頭部を、小突いてやった。
「…?」
ちょっと不機嫌な表情で、彼らは私を見る。
そんな彼らの表情に対して、私もちょっと不機嫌になってしまう。
「別に責任感じなくていいから。
だって、探せばいいだけでしょ?」
ディオは私の台詞を聞いて、呆れたような顔をする。
「…お前は、早く帰りたいんだろう?」
「ん、できればね。」
「なら、何故この状況で焦らないんだ?」
レクティは、少し怒っていた。
私はそんな彼らに、不敵に微笑む。
「だって、どんなことをしても帰し方探してくれるんでしょ?
自分が言ったこと、忘れた?」
私は覚えてますとも、ええはっきり。
彼らはそんな私を呆然と見て、何故か顔を赤くする。
…一体何故?
「ほ〜、お前ら手ぇ早いんだなぁ。」
何故かニヤニヤしながら、アスガルドさんは言う。
そんな彼に、二人はは顔をますます顔を赤くして言い返す。
「なっ…!!何言ってんだよ、父さん!」
「からかわないで下さい、おじさん!!…僕らはただ…。」
レクティはそれ以降の言葉を発することなく、うつむいてしまった。
…もしかして、照れているのだろうか?
「…とにかく。」
と、そこへ冷静な声がその微妙な雰囲気を打破する。
声の主は、もちろんシティロークさんだ。
「君はそれでいいのかもしれなが…。
君の家族が心配するだろう?」
その言葉に、私以外の三人の表情がハッとする。
確かに、急に家族の一人が行方不明になったら誰だって心配するだろう。
そんなことを思って、私は唐突に気が付いた。
「…あー…、確かに裕璃は心配してそうですね…。」
というか、錯乱して泣いていそうだ。
いつもはしっかりしているのに、こういうときだけ弱いから。
しかも私はおそらく目の前から突然いなくなったのだろうし。
きっとすごい状況になっているんだろうなぁ…。
…ああ、考えたら心配になってきた。
「…ユーリ?」
「ああ、私の双子のお姉ちゃん。」
「へ〜、アイリちゃんって双子なんだ。
似てるのか?」
アスガルドさんの質問に、私は少し考え込む。
顔は裕璃のほうが美人だし、性格…は殆ど似ていない。
しかも私と裕璃は目の色も髪の色さえ微妙に異なっていたりする。
私は両方茶色だが、裕璃は両方黒だ。
…ここまで違うと、双子としては珍しい方だろう。
「…まぁ、一般姉妹くらいには似てます。」
と、なんと言ったらいいか分からなかった私は彼に曖昧な答えを返す。
…しかし、本当に彼女がこの世界に来なくてよかった。
彼女は妙な所で気が弱いから、突然一人でこんなところにきたらまず泣き出している。
私が一人でウンウンと頷いていると、シティロークさんは表情も変えず、聞いてきた。
「確かに兄弟も心配するだろうが…
両親も心配しているだろう?」
私はそれを聞いて、少し微笑んだ。
「ああ、それは大丈夫です。」
「?」
シティロークさんはさすがに不思議そうな瞳で私を見た。
――― 子を心配しない親などいない。
その目は、そう語っていた。
でも、彼らは心配はしない。
―――――――― いや、できないだろう。
「私の両親、…ついでに言うと祖父母も、皆亡くなってますから。」
「ご馳走様でした〜!」
私は手を合わせて、そう言った。
時間は少し前に夕日が沈んだ頃、場所はもちろんトリーティア邸。
私はトリーティア一家と夕食を頂いていた。
その内容は、とても充実していた。
柔らかいパンとポタージュスープ。
シャキシャキのレタス中心のサラダは、クリームチーズ入りのドレッシングがとても美味しい。
ちょっとしたつまみ用に置いてあるシュリンプフライは、タルタルソースとマッチして美味しく、彩のための野菜のおかげで見栄えまでも完璧。
デザートのオレンジのシャーベットは、素材の味を生かしつつオレンジの苦味が見事に消えていてベリーナイス。
そして何より、メインディッシュのレモンをベースにしたソースがかけられているチキンソテー。
皮はパリパリで、中はジューシーでとても美味しい。
いずれも絶品料理だ。
「あら、お口に合いましたか? アイリさん。」
私はその質問に、満面の笑みを浮かべて答えた。
「はい! とっても美味しかったです!!」
「そう、よかったわ。」
にっこりと笑って言ったのは、実はレクティのお母さんのウェンディさんである。
ダークブルーの髪に、トパーズを思わせるような黄色がかったオレンジは、カトレアちゃんから受ける印象とよく似た感じ。
女性に年齢は聞くものじゃないけれど、おそらくシティロークさんと同い年くらいだろう。
凛としている感じがとても好印象な、美人さんである。
…これなら、子供二人とも美形になるわと、私は大納得した。
先ほどまでいなかったのは、実は彼女は学校、というか『クリストクルセイダー』の先生をしているらしく、まだそのときは準備やらで帰ってきてなかったんだとか。
帰ってきて彼女は家に知らない子、つまり私がいることに驚いていたが、事情を言うと快く迎えてくれた。
そして彼女はそれから張り切って料理をしたのである。
本当は手伝うと言ったのだが、お客様に迷惑はかけられないとのこと。
私はしぶしぶカトレアちゃんと男性陣が研究室で例の本についてああだこうだと言っているのを待っていた。
で、男性陣のうち、ディオとアスガルドさんが帰ってから出てきたのがあの料理、という訳である。
美人な上に、先生をするほど頭がよくて料理上手。
天はニ物を与えすぎである。
私はそんなことを思いながら、食器を重ねていく。
「それじゃあ、片付けついでにちょっと家の中散歩してもいいですか?」
私は立ち上がって重ねた食器を持ち上げ、シティロークさんに聞く。
シティロークさんは、
「ああ、構わない。」
と、快く了承してくれた。
一見厳格そうだけれど、とても優しいパパである。
レクティってば、家族運に恵まれてるわ、うん。
「それじゃあ―――――」
「待ってくれ、アイリ。」
私はそのままドアへ向かっていた足を止めて、後ろを振り返る。
声をかけてきたのは、もちろんレクティだ。
「ん?何?」
ちょっと不思議に思って聞く私に、彼ははっきりとこう言う。
「僕も一緒に行っていいだろうか?」
「…別にいいけど…。」
私は家の中を回るだけなのだが…。
…方向音痴にでも見られただろうか?
「ああ、そうじゃない。」
表情に思いっきり考えが出ていたのか、彼は私の顔を見ながら答えた。
「…ただ、少し話がしたいだけだ。
…二人で。」
その表情は、とても真面目な表情だった。
「…そ…。」
「『そ』?」
「そんな…、まだ早過ぎるわ。
私達、まだ出会ったばっかりだし…。」
「は?」
「やっぱりこういうものはお友達から始めないと…。」
「…って、君は何を言っているんだ?!」
「それに…いきなりご両親の前でそんなこと…、
愛璃、恥ずかしいっ。」
「ちょっと待てアイリ!何を訳が分からないことを…」
「でもそうよね、二人の将来についても大切よね!
うん、分かった。 不束者だけれどよろしくね、あ・な・た♪」
「だから待てと言っているだろうっ!!」
スパコーンッ!!
彼はその辺にあった紙を丸めて、私にツッコミを入れる。
その顔は、無論赤い。
私は結構痛かった頭を抑えながら、
「いやぁ、雰囲気的に深刻そうだったから一ボケしとこうかなぁと。」
「しなくていい。」
「え、でも私がボケないとレクティの特殊技能のツッコミが生かせないじゃん!」
「生かさなくていい!!」
全国の漫才師を敵に回すような発言である。
…まぁ、レクティっぽいといえばレクティっぽいのかもしれないが。
「…まぁいいや、行こっか。」
そう言って私がドアの向こうへ出て行く。
レクティもその後に続いた。
そんな二人を、一家の家族はほほえましく見ていた。
「…アイリさんは面白いな。」
「そうですね、あなた。」
「本当に、レクティの嫁にでもなってくれないだろうか…。」
「確かに、それは楽しそうですわね。お父様。」
こんな会話が繰り広げられていたのは、愛璃たちにとっては別の話である。
それから私はレクティに家の色々なところを案内してもらった。
研究室に彼ら四人が入っていった後、カトレアちゃんとの友好度アップのためにずっと喋っていた。
そのおかげで結構仲良くなったのだが、すっかり家を見て回るのを忘れていたのだ。
「…しっかし…広いねぇこの家。」
私は呆れたようにため息を吐いた。
二階にあるテラスの塀に両手を預けて。
そこは、他の豪勢な建物の上にある、私がいつも見ているものとはちょっと違う柄と大きさの月があって、とても綺麗だ。
「…そうか?」
レクティは口の下に手を置きながら、考えこむ。
確かに金持ちには10LDKは一般常識かもしれない。
が、日本の一般家庭出身者には羨ましい限りだろう。
「で、話って何?」
私は隣に佇んでいたレクティの顔を覗き込む。
するとただでさえそうなのに、一層彼の顔が真面目そうになる。
「…実は、あの本の話なんだが…。」
「うん。」
「どうやら、内容がさらに暗号で書かれている…らしい。」
「…はい?」
私は思わず声を上げた。
だって、古代文字で書かれている上に内容は暗号化、っである。
読む人に嫌がらせしたいとしか思えないではないか。
「…だから、僕の父上やディオの父上では、なかなか解読するのが難しいらしい。
もちろん、できるだけのことはしてみたが…父上もおじ上も専門ではないからな。」
「ってことは…旅するの決定?」
「後ニ・三日写本を手伝ってはみるが…、おそらくそうなるだろうな。」
うわ、それ聞いたら何かますます面倒くさそうである。
「ゴメンね?私のために旅に出なきゃならなくなって。」
私はちょっと笑いながら、彼に言う。
すると、レクティは私とおなじものをその表情に浮かび上がらせた。
「それはいい。もともと僕らは学校を卒業したら世界を回ってみるつもりだったからな。」
「あ、そうなんだ。何で?」
「自分達の知識と経験を増やそうと思って、な。
前々から父達には話してあるから、君という人員が増えても何も言わないとは思う。」
それは説明しなくて済むので、結構楽だ。
いやぁ、よかった。
「そんなことよりも…君だ。」
私がちょっと安堵していると、レクティは何故か顔を曇らせながら言う。
「…私?」
何かしたかと思ったが、こっちでしたことと言えばギャグ的行動しか思いつかない。
「…そんなに私のボケに突っ込むのはイヤですか?!」
「誰もそんなことは言ってないだろう…少し疲れはするが。」
ああ、よかった。
後半はともかく全否定されたら私の存在意義がなくなってしまうからなぁ。
「じゃあ、何?」
私がそう言うと、苦々しく笑ってみせる。
その様子は結構痛々しかった。
「すまない、僕らが面白半分でしたばかりに…。」
彼はとうとういたたまれなくなったのか、視線を下に移してしまう。
…まぁ、なんだ。
この人は私がこっちに来てしまったことを心底後悔しているのだろう。
外見が真面目君なだけに、考え方も一直線なんだろう、きっと。
私はそんな彼の肩を掴む。
彼は不思議そうな顔で私を見てきた。
私は、何か妙に可愛いなとか思いながら彼の顔に手をつけて…
「…痛ッ!!」
そのまま思いっきり頬をつねった。
「何をするんだ?!君は…。」
彼は驚いた表情をしながら、私の手を振り解く。
「いや、何暗い顔してんのかなぁと。」
私のその答えに、彼は呆れたような表情を浮かべた。
「…僕は一人の人間を生きるべき世界から引き離してしまったんだぞ?
暗い顔をしたくもなる。」
そう言って、ため息を吐いた。
私はそんな彼に習って、ため息を吐く。
「別に落ち込んでても仕方ないでしょ。
そ・れ・に、私ちゃんと言ったよね? こっちにいる限りは楽しんで生活してみるって。
確かに普通に待つつもりだったけど、旅するのもなかなか楽しそうですよ?」
そして大げさに両手を使って、分かってないなぁというポーズを取ってみせる。
彼はそんな私を驚きの表情で見た。
その視線は、さながら珍獣を見るような、そんな感じ。
「…君は…本当に変わっているな。」
「あっはっはっは。
それ、褒めてんの?」
私が乾いた笑みを浮かべる。
変わっていると言われて喜ぶのは芸人くらいだ。
確かに私はボケるのが好きだが、芸人というわけではないのでちょっとムカッと来る。
レクティはそんな私を見て、今までとは一変して余裕綽々といった感じの表情で笑う。
「一応は、な。」
もちろん、その効果音は『フッ』と言う感じだ。
その姿は、私には結構むかついて写った。
…ま、美形だから多めにみるけど。
「―――――お前ら、そんな所にいたのか。」
ほのぼのなんだか切迫しているのかよく分からない会話を繰り広げている私達に、後ろから声がかかる。
振り返ってみると、そこには家に帰ったはずのディオが何かの紙袋をかかえて立っていた。
「何でディオがいるの?」
私が思ったことを彼に聞いてみると、彼はちょっとむっとしながら答えた。
「いちゃ悪いか?」
「悪くないよ。けど…」
「けど?」
「金髪が眩しい。
光反射させない位置に来てよ。」
ただでさえ何かこの世界は月明かりがきれいだというのに…。
そんなサラサラ金髪を惜しげもなく晒されると保養通り越して目の毒だ。
しかし、彼には意味が分からなかったらしく、
「…何だそりゃ…?」
と言って、呆れたようにため息を吐いた。
…今日はよく誰かにため息吐かれる日である。
「それで、何のようだ?ディオ。」
「ん? ああ、ちょっとアイリに渡したいものがあって…な。」
「へ? 私?」
私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
ディオはそんな私に近づいて、彼の持っていた包みを何も言わずに私に押し付ける。
…別にディオに預けてたものなんてないはずだけど…。
そう思いつつも、私はその包みをガサゴソと開けた。
中から出てきたのは、一足の靴。
飾り気のない茶色のショートブーツだけれど、何故かなかなか可愛い感じがして、結構私好みである。
「…どうしたの? これ。」
私は右手でそれを持ち上げながら、ディオに問う。
「いや、お前にやろうと思って買ってきた。」
「…はい? 誰が?」
「オレが。」
私は思わず、我が耳を疑ってしまう。
私は別にディオに奢ってもらうような約束はしてなかったはずだけど…あれ?
「…一体全体何で?」
私はこのまま聞かないと何かもやもやしそうだったので、彼に聞いてみた。
すると、彼は何故か少し顔を赤くして、頬をポリポリ掻きだした。
「…お前こっちに呼んだの、元を正せばオレのせいだし…、嫌な話もさせたようだしな。」
「嫌な話…?」
「いやだから…両親の…。」
彼はためらったのか、言いよどんでしまう。
「ああ、あれね。」
私はちょっと考えてから、ポンッと手を打った。
「別に気にしなくていいのに。
後半は特に、ね。」
「…けど…、何か変な事でも思い出させたんじゃないか…とかな。」
彼はそっぽを向いて、音量を落として答える。
そっぽを向く直前の顔色は、結構赤かった。
…かなり照れくさいのだろう。
私はそんな彼の背に向けて言った。
「あのねぇ…私の両親は死んでもう五年もたってるんだよ?
流石に吹っ切れてるよ。」
彼は私の言葉を聞いてか、顔だけでこっちを向く。
私はそんな彼の顔を向いて、笑いながら言った。
「それに、私には裕璃がいたから、ぜーんぜん寂しくなかったしね。」
「…そうなのか?」
「そーなんです。」
私はディオの鼻に人差し指を突きつけて言ってやる。
すると、彼は小さく笑った。
おそらく、少しほっとしたんだろう。
その微笑を見ながら、私はいそいそとブーツに足を通す。
「あ、サイズピッタリ。」
「そうか、そりゃよかった。」
「ありがとね、ディオ。」
そう言うと、彼は照れたように笑う。
「…しかし…。」
そんな中、レクティの声が私の耳に届く。
その声は冷静でいて、どこか優しさが含まれていた。
「それならなおさら、少しでも早く君を帰してやらないとな。
その『ユーリ』さんのためにも。」
「そうだな…。」
ディオは私の頭に手を置いて、くしゃくしゃと撫でる。
「必ず『ユーリ』って奴にもう一回会わせてやるから、少し我慢していろよ?」
私はそんな彼らを呆然として見ていた。
けれど言われたことを徐々に理解して、私は不敵に微笑んで彼らに言ってやった。
「了解!
…だけど、私絶対我慢なんてしないから。
だってこっちの世界も楽しそうだもの!」
この二人は、結構世話焼きでとても親切。
私はこの時、改めてそう思った。
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