第二章
4 売られた喧嘩は売り返す!
私は玄関先で、視線をキョロキョロと動かした。
辺りに誰もいないか、それを確かめるためである。
時刻は ―――― 午後十時頃。
まだ寝るには早いが夜は夜、そんな時間。
人影がないのを確かめた私は、そっと扉を開ける。
そして外に出て、ほっと息を吐いた。
「…で、何してんだ?お前は。」
ギクッ…。
何か、聞きなれた声がする…。
しかも、何かここ三日間で散々聞いてきた声だ。
私は恐る恐る、後ろを振り向いた。
そこにいたのは、予想通りの人物、この家のご長男・ディオルース=ローレンシア氏である。
「デ…ディオ?」
「ああ。」
「やっほーい。」
「やっほー…、って!違うだろムグっ…」
私はあわててその口を塞いだ。
これ以上、誰かにばれるのを避けるためである。
私は唇に人差し指を持っていくと、ディオは気がついてくれたのかこっくりと頷いた。
「…何で気づいたの?」
私は彼の口に当てた手をはずしながら、そっと聞く。
そんな私に、彼は眉をひそめた。
「何でって…そりゃあ突然『動きやすい服を貸せ』って言われてお前の性格照らし合わせたら、
ああこれは何かするなって思うほうが自然だろう?」
実際着てるし、といって私の方を彼は指差す。
彼に貸してもらったゆったりとしたズボンと長袖のシャツを着ている私を。
…選択肢誤ったなぁ…。
少々小さくてもミントちゃんの服借りとけばよかったわ…うん。
彼女の問題でもあるから、喜んで貸してくれただろうし。
「で、何をする気なんだ?」
彼はにっこりと笑う。
どこかレクティを彷彿とさせるその笑みは、『言うまで行かせねぇぞ』としっかりと語っていた。
「…言わなくちゃ…ダメ?」
と、私が最後の悪あがきに聞いてみると、彼はその笑顔のままで、
「ダメだ。」
と、すっぱりと答えを返してきた。
…どうやら、言いくるめるのは無理そうである。
私はため息を吐いて、覚悟を決めてポツリポツリと彼に語りだした。
私は今朝、広い廊下を歩いていた。
昨日泊まったディオルース=ローレンシア君の生家の廊下を。
私はレクティの家に泊まっていたのではないか、そう思う人も結構いるだろう。
今はディオの家に泊まっているわけだが、これにはちょっとした事情がある。
確かに召喚一日目、つまり一昨日はレクティの家に泊まってそのままカトレアちゃんとミントちゃんの両手に花状態で買い物に出かけ、日常品とか旅の必需品とかを買い揃えた。
もちろん私は昨日ももレクティの家に泊めるんだろうなぁと思って、そのまま家に向かっていたのである。
因みに荷物は美少女にそんな事をさせるのは躊躇ったがどうしてもと言われたので、三人で分けて。
しかし、途中で彼らと出会ってしまったのである。
写本やら研究やらをひと段落つけて帰っていく、ディオとアスガルドさんに。
で、今からレクティの家に帰ると言ったのだけど、それがまずかったらしい。
「え〜、今日はシークの所じゃなくてオレの家に来いよアイリちゃん!!」
と言って、そのまま私の荷物をディオに押し付けて俵担ぎされて、この家に連れてこられたのだ。
…一応乙女としてはせめて姫抱っこがよかった…。
で、連れてこられたのはこの際どうでもいいが、この家の広くて豪勢なことで圧倒される私。
おっきいと思っていたレクティの家が余裕で二つ三つ入りそうな勢いで、広い。
しかも、レクティの家の方針は「自分で出来ることは自分でする」だったので使用人は使われていない部屋掃除用の掃除婦さんが二人ほどだったのだが、この家では昨日会っただけでも一ダースは存在していた。
さすが貴族の家である。
私は昨日教えてもらった食堂のドアをノックしてから開ける。
「おはようございまーす。」
そこにいたのはアスガルドさんとディオのお母さん、そしておそらく各一人ずつつくのだろうと思われる給仕さんの姿だった。
ディオとミントちゃんの姿は、まだない。
「あらぁ、アイリちゃん。おはよう。」
と、私に真っ先に挨拶してくれたのは、ディオのお母さんのオフェリアさん。
いつも笑顔で一見とても優しそうなお母さんである。
…もちろん美人。
「おはようございます。オフェリアさん。」
「もう、アイリちゃんたら『お姉さん』で良いのに。」
…『お母さん』はダメなんですね?オフェリアさん。
そんなことを思ったが、私はけして口にださない。
とあるものが惜しいから。
そんなこんなで、あいまいに笑う私。
「おっはよう!!アイリちゃん!!」
「おはようございます。アスガルドさん。」
ディオパパは今日も元気そうに私に挨拶した。
私はそれに答えて、一応年上なのでなるべく礼儀正しく挨拶をする。
しかし、それで終るはずだった挨拶は彼相手ではそれだけですまなかった。
彼が何故か私を手招きしのである。
私はそれを不思議に思いながらも、とりあえずそれにしたがってみる。
すると、彼は今度はポンポンと膝の上を叩く。
「さ、ヒザの上で食べなさいっ!!」
―――――――― 私が何かツッコミを入れるより速くそれは私の視界に入った。
サクッ!!
私はその場でじっとしたまま、その銀のきらめきを見守った。
飛んできたものはナイフとフォーク。
それがアスガルドさんのイスに突き刺さっていた。
位置は丁度左右の頬ピッタリで、それぞれ薄皮一枚分だけ斬られているというコントロールのよさである。
おそらく動いていた方が危なかっただろう。
「えっと…。」
私は当然のように、投げ込まれた方向へと視線を移す。
そこにいたのは、綺麗な笑顔のままのオフェリアさん。
「あら、私ったらごめんなさい、あなた。」
「は…はっはっはっはっはっ…。」
…アスガルドさん、顔が引きつってますヨ。
オフェリアさんはアスガルドさんのその様子を見てから満足そうにうなづき、近くにいた給仕さんに、
「フォークとナイフが勝手に飛んでいってしまったの。
悪いけれど、新しいものと交換してくれないかしら?」
と、とてもすばらしい笑顔で言った。
――――これでもうお分かりだろう。
ディオのお母さんは、確かに一見天然だ。
しかしそれは装っているだけで、本当は…黒い。
ミントちゃんとか私には発動しないようだが、特にアスガルドさんには暗黒を発揮してくれる。
オフェリアさんはなんちゃっておしとやか奥様なのだった――――――
「…って、お前それ何か関係あんのか?」
彼は思わず、私にツッコミを入れた。
私はそんな彼に、満面の笑みを見せる。
「なにも。」
「オイ!」
「いやぁ、個性的過ぎて振り返り過ぎちゃった♪」
「お前なぁ…。」
「え、何? 否定できるの? 個性的じゃないって。」
「…。」
思わず沈黙する彼に、私は含み笑いを浮かべる。
すると、彼はちょっと赤くなって軽く小突いてきた。
私はそれも笑いながら受ける。
…家の両親はもっと酷かったということは伏せておこう。
「でも、まぁちょっと関係あったりするのよ? これが。」
「?」
「その後ディオとミントちゃんが入ってきたわけなんだけど、
私その時ミントちゃんに紙袋渡されたの覚えてる?」
彼はちょっと考えてからこくりと頷いた。
「あれな。 …一体何渡されたんだ?」
私は一瞬間を置いてから、こう答えた。
「『クリストクルセイダー』の女性用学生服。」
「はぁ?!」
私はあわてて、もう一度彼の口を塞ぐ。
そしてキョロキョロと辺りを見回して、誰にも気づかれていないのを確認してから、ほっと息を吐いた。
そしてそっと手を離す。
「ディオ?」
「悪い…。」
とがめるような私の視線に、彼はすまなそうに謝った。
まったく、オーバーリアクションは私がボケた時に取っておいてほしいもんだ。
「…で、どうしたんだ?」
私はそんな彼に胸を張って言う。
「もちろん着ました。」
「着たのかよ、オイ。」
ズビシッと彼は控えめな声で私にツッコミを入れた。
「だって美少女の頼みだし。」
「渡されただけだろうが。」
「着ろって言ってるようなもんでしょ?」
「別にそうでもねぇだろう?」
「…じゃあ、何? ディオに着せとけとでも?」
「何でそうなんだよっ!」
「だって残った答えはそれしかないでしょ?」
「他にもあるだろ、選択肢。」
「え、じゃあレクティの方?」
「別の方向に行けよオイ。」
「………売る?」
「あ〜…言ったオレがバカだったよ。」
はいはいと、彼は呆れたような答えを返した。
…私としてはもう少し漫才しときたかったんだけど。
ま、時間もなくなるしいいか。
「で、その後ミントちゃんと家に来たカトレアちゃんとで外に出て…。」
「…その格好のままか?!」
「うん。」
彼はその答えに、盛大にため息を吐いた。
「何? 見たかったの? 私の制服す・が・た。」
「…何バカ言ってんだ…。」
人差し指を振りながら言う私から、彼は視線をそらす。
…耳が微妙に赤いのは何故だろう?
私はそんな彼に少し微笑んでみせる。
「都合よかったからね、着たほうが。」
「はぁ…?なんで?」
私は心底不思議そうに聞いてくる彼。
私はそんな彼に悪戯っぽい笑顔を向ける。
きっと言ったら、彼は驚くだろうなと思って。
「…そう。」
私は、握りこぶしを作って言った。
「クリストクルセイダーの学校に潜入するためにっ!」
案の定、彼は驚いた。
…もちろん、私はその前に手でディオが大声を出すのをガードしたけど。
気づかれると、困るからねぇ。
「ま、潜入って言っても普通に正面入り口から堂々と入っていったんだけど…。」
「オイ。」
私はディオのツッコミを受けながら、またポツリポツリと語りだした。
玄関は、全然問題なく通過できた。
全員制服を着ていたし、その日は休日。
ディオ達の卒業式 ――― 因みに明日らしい ――― の準備で出てきている生徒や先生もいるらしいが、会場や会議室などのごく一部の所にしかいないらしいから見つかることは無いだろうという話だ。
まぁ学校に自習しに来ている人もいるが、それもごく一部らしいし少し安心である。
そんなこんなで、私達はまだ誰も出合うことが無く三つ目の校舎に移動していた。
「つくづく思うけど、結構広いよねぇ。」
私は辺りをしげしげ見回しながら言った。
私の学校も私立で幼稚園から大学までそろっている殆どエスカレータ式な学校で、無駄に広い。
しかし、それは学校全体の広さである。
クリストクルセイダーの学校は日本で言うところの中学から高校の六年間通う所らしいのだが、それでも普通の公立高校三つ分くらいの広さはあった。
「そうですか?普通だと思いますけど…。」
「いやいや、それはカトレアちゃんたちの感覚でしょ。
狭い国土でギッチギチに暮らしている日本国では大変広いですわ。」
と、大げさに肩をすくめて見せると、カトレアちゃんははフッと綺麗に微笑んだ。
ミントちゃんはそんな私達の先頭でパタパタ走っている。
先導したいのだろうかと思うと、何か可愛かったのだが、とある教室の前でピタッと走るのをやめてしまう。
「…で、ここが私達の教室だよ! お姉ちゃん!!」
ミントちゃんは振り返りながら、、それはそれは抱きしめたくなるほど可愛い笑顔で私に説明してくれる。
あぁ、本当こんな妹欲しいわ。うん。
ディオが羨ましい。
「へぇ、ここが。」
そう言って、私はその教室を覗き込む。
そこは、一見ごくごく普通の教室だった。
木製の観音開き式の扉を開けて、中の様子を伺う。
白い壁に、白い天井、段になって黒板が見やすくなっている。
机は繋がっていて、机の数は二十個。
結構広々とした教室だ。
私はその中に入ってみて、通路近くの席に座ってみる。
「…そっか、ここで愛の伝道師からのレッスンが…。」
「ありませんわ、アイリ様。」
スパッと笑顔でツッコミを入れるカトレアちゃん。
流石、お兄さん譲りだね。
私はそんな彼女にハハハと笑って、
「冗談冗談、でミントちゃんとカトレアちゃんの席はどこでっしゃろ?」
と聞いた。
すると彼女達は不思議そうに顔を見合わせて、
「席って…別に決まってないよ?」
「来た順に座るのですけれど…アイリ様の所では違うのですか?」
と言う。
あらら、こっちでは大学方式なのか。
「うん、私くらいの年齢だと席が決められてて一年に何回か席替えがあるのさ。」
私はそう言いながら微妙に懐かしい机に突っ伏す。
授業はこうやって寝ることもしばしばあるや。
こっちに来たのも夏休みに入ってまもなくなのに、妙に懐かしく感じる。
すると突然、前面の扉がバタンと開いた。
私はびっくりしてとりあえず頭を持ち上げる。
そこから出てきたのは、三十歳ほどのちょっと薄さが気になる男性だった。
「あ…エクスぺラー<言律者>!! おはようございます!!」
カトレアちゃんが真っ先に気づいて、声をかける。
そのおかげでミントちゃんも気がついたのか、その男性にスカートのすそをあげて礼をする。
私も何かしとかなきゃまずい気がしたので、見様見真似で挨拶してみた。
するとその男性は、私達を一瞥して、
「ローレンシア家とトリーティア家のご息女か。
…ん?」
そのまま私に視線を移して、動かない。
…ばれたかな?
「…君は…。」
「あ、この方は私の従姉妹で、来年転校してくる予定の方ですわ。
今日は一緒に学校案内に来ましたの。」
ナイス!! カトレアちゃん!!
頭の回転速いねっ!!
「そうか。」
そのおそらく教師は、そう聞いてあっさり引き下がる。
ミントちゃんはそれに隠れてほっと息を吐いた。
おそらくウソはなれていないのだろう。
「だが、ここにいてはいずれ他の教師に捕まって卒業式の準備に借り出されるぞ?
そうならない内に、別の場所に行ったほうがいい。」
カトレアちゃんとミントちゃんはその答えに顔を見合わせる。
…ま、確かに私としても面倒な雑用を押し付けられるのはゴメンだ。
「そうですか、すみません。教えていただいて…。」
と、私が猫被りモードで話しかけると、彼はにっこりと笑う。
「いや、転校生がそんなことに巻き込まれたら、何かと不便だろう。」
用事もあるだろうし、と彼は続けて言う。
「はい、ありがとうございます。」
私は出来るだけ上流階級っぽくお礼を言うと、カトレアちゃんとミントちゃんも声をそろえてお礼を言った後、
「「「失礼しました。」」」
と、三人の声を合わせて扉をしめ、その教室を後にした。
「あぁ、ビックリした。」
「まさかあのタイミングで誰かに会うとは思わなかったわね。」
私とミントちゃんとカトレアちゃんは敷地内の道を歩きながら喋る。
まぁ、私もまさかあのタイミングで人が入ってくるとは思わなかった。
殆どの人はいないはずと聞いていたし。
でも、物事には例外がつき物だ。
私みたいなギャグキャラ少女もたまにいるように、ああいうこともたまにはあるだろう。
「でも、いい人だったっぽいよね。
エクスペラーさんだっけ?」
「確かに、それで助かりましたわ。」
カトレアちゃんはほっと胸をなでおろした。
…あれ?
「…そういえば二人ともあの人に何にも敬称つけてなかったみたいだけど…いいの?」
私が思うに先生なんでしょ? と彼女達に向かって聞く。
すると、二人はキョトーンとした表情をする。
しかしその後何かが切れたかのように突然笑い出した。
私は何がなんだか分からず、とりあえず笑い方も可愛い二人を眺めておいた。
先に笑いの神が抜けようとしていたのは、意外にもミントちゃんだった。
「お…お姉ちゃんっ!! エクスペラーって名前じゃないよ?」
「え…?! そうなの?」
「ええ、クリストクルセイダーのクラスですわ。」
カトレアちゃんは目に溜まった涙を指でふき取りながら、そう答える。
…クラス? 一組二組だとかいうあのクラスのことだろうか?
そう思って彼女達に聞くと、首を横に振られた。
「えっとね…簡単に言うと…地位かなぁ?」
「地位? 学校なのに?」
私がそう言うと、l彼女達は難しそうな顔をして説明しだした。
彼女達の話をかいつまむと、こういう話だ。
まず、クリストクルセイダーというのは元々組織名。
彼女達が通っているのはそこに付属する養育学校なのだそうだ。
そこで学ぶものは自分が将来どんな職に付きたいのか、はたまた旅に出たりするのか考えて日々送る。
で、いざ卒業した時に、その組織からそこで学んだことに関する様々な職を斡旋してもらえる。
成績がトップクラスの人達には国からスカウトが来たり、クリストクルセイダーに残って研究してみないか、と言われる人もいるし、そのまま教師になる人もいるらしい。
そして各自様々な仕事をしたりすると、クリストクルセイダー内でのランクがアップするんだとか。
さっきのクラスはこのランクといい、まぁ日本で言う部長課長制度だ。
因みに、ロード<統治者>は各大陸の主要都市にあるクリストクルセイダーの長に当たる人で、もちろん位はトップで社長といった感じ。
ディオとミントちゃんの父親・アスガルドさんのマスター<律極者>とは、それについで二番目の地位。
その役職についている人は大概国の上昇部にいる人か、すごい技術や理論をたくさん編み出した人で、各組織に十人いればいい方で簡単に言うと部長クラス。
で、先ほどのエクスペラー<言律者>もしくはエクスペラー<戦律者>(発音は一緒)は中間管理職といった感じの人で、課長クラス。
レクティとカトレアちゃんの父と母もこのエクスペラー<言律者>らしい。
係長、もしくは平社員レベルなのはリサーチャー<戦修者>もしくはリサーチャー<言修者>と言って、駆け出しからあまり才能が無い人まで様々だ。
ディオとレクティは明日卒業したらこれになるらしい。
で、まだまだ学生ですというのがラーナー<学習者>。
ミントちゃんとカトレアちゃんはばっちりこれだ。
何故その人がエクスペラー<言律者>だとわかったのかというと、彼らの持っている十字架が位を示しているのだそうだ。
ラーナーはもらえないらしいが、リサーチャーは白、エクスペラーは銀、マスターが彩色で、ロードが金色のものを持っている。
で、その人が持っていたのが銀色の十字架だったというわけだ。
因みに、その十字になっている所の宝石の色が赤か黄色か蒼かでそのランクの中の上下が分かるらしい。
「…つまりさっきの人の宝石の色は黄色だったから…中間管理職の中間…苦労してそうだわ…。」
彼の髪の毛の行く末が不安だわ…と呟くと、ミントちゃんはプッと噴出した。
「アイリ様…それはエクスペラーに失礼ですわ…!」
「え、カトレアちゃんは思わなかったの?」
「え…いえ、確かに薄いとは思いましたが…。」
「やっぱりカトレアも思ってるじゃん」
「…!! アイリ様っ!!」
彼女はミントちゃんにそうツッコミを入れられると、拳を振り上げて追いかける。
ミントちゃんはそれをキャーキャー言いながら笑顔で小走りになって逃げる。
何か絶妙に可愛いのは、私の気のせいですか?
いや、そんなはずはない!
「あーもうカトレアちゃんたら初奴め!」
私は耐え切れずに、カトレアちゃんの頭を撫でる。
カトレアちゃんは一瞬きょとんとしたが、
「え…ちょっと!アイリ様ッ!!」
と、焦ったような声を出す。
もちろん顔も赤らんでいて、可愛さ倍増。
うい奴めっ! ともう一回言っていると、今度はもう片方の腕が引っ張られている感覚を覚える。
何でだと思って見てみると、ミントちゃんが腕に掴まっていた。
「ミントちゃん?」
すると彼女はキッと睨むように私を見てきた。
「カトレアだけずるいっ!!」
…
「ああ、もうミントちゃんもう初奴っ!!」
「ひゃっ!!」
私は突然、彼女に抱きついた。
こんなに可愛い行動を目の前で耐え切れる人がいるだろうか?
いや、いない。
ミントちゃんは初め戸惑っていたが、やがて次第に嬉しそうに笑う。
ああ至福の時間だと、そう思った。
しかし、世の中にそれを突き崩す輩は五万といる。
「お前らこんなところで何してんだ?」
そこに響いた、実にいやみっぽい声。
私達はその方向を振り向くと、そこにはいかにも悪役だと主張する三人組がいた。
「…レスター…。」
ミントちゃんが微妙に嫌そうに声を出す。
私はカトレアちゃんに視線を送ると、
「同級生…ですわ。」
と、こっちはかなり嫌そうに答える。
「まさか君達がこの場所に用があるとは思わなかったなぁ…。」
そう言われて、私は辺りを見回す。
…あれ? 微妙に見覚えがあるのですが…。
「ここどこ?」
私が言った言葉に、そこにいた私以外の全員がこけた。
「あ…アイリ様…、ここは生徒個人の研究室ですわ…。
もっとも、よっぽど成績がよくないと貰えませんが…。」
ああ、通りで見覚えがあると思ったら、ここは初めに二人に召喚された場所だ。
成績が良い…と言うことは、結構頭いいんだねぇディオとレクティ。
…でも何で学校内に見覚えが無いんだろう?
そういえばあの時出たのは結構小さめの門だったし、裏口か何かあるんだろうか。
「…因みに二人のは?」
「残念ながら、無いですわ。」
と、肩を落として言うカトレアちゃん。
そんな彼女達に向かって嫌味に笑う悪役三人。
「なのになんでこんな所をうろついているのかな?」
その中のリーダー格の男が前に出てきて言う。
「貴方達だって研究室ないでしょ?」
「僕達は君達よりももらえる確立が高いと思うんだけどなぁ。」
「…成績は大体一緒位ですわ。」
「俺達の家柄の方が格式が高いんだよ。」
「そんなの、関係ないでしょ!!」
「成績だって上だ。」
そんな感じに言い争う五人。
だがこっちの人数が少ないため、微妙に負けそうである。
「やめなって、二人とも。」
私は静かに、その場を中断した。
「…アイリ様。」
「お姉ちゃん…。」
二人は不服そうに私の顔を見る。
私はそんな二人の顔を両手で軽めに小突く。
「こんな親の七光りな奴は無視が一番いいのよ。」
「なっ…!!」
私が言った言葉に過剰反応する。
カトレアちゃんとミントちゃんは一瞬唖然としていたが、次には悪戯っぽく笑っていた。
「そうですわね。」
「こんな奴の言うことなんて気にしないほうがいいよね。」
「お前ら…っ!!」
私達の顔を睨みつける三人。
しかし私達はあくまで余裕の微笑みをたたえた。
「そうそう、腰ぎんちゃく二人にくっつかれてるデコっぱちなんてあんまり迫力ないし?」
私がそう言った時、相手は完璧に切れたのだった。
「…お前なぁ…わざとやってるだろ?」
ディオは呆れたように私の顔を見ながら言う。
私はしかし、とても真面目な顔で彼に返す。
「だって美少女VS悪役三人だったら私は迷わず美少女につくわ。」
「…何かだんだんお前の性格分かってきた気がする。」
そう言って、彼はため息をついた。
私はテヘへと笑うと、彼はうんざりしたよな表情になる。
「で、何でそれが今の時間出て行くことに繋がってんだ?」
その瞬間、私の微笑みが氷付く。
チッ…このまま忘れてくれれば都合よかったのになぁ…。
やっぱり研究室貰ってるだけあって頭いいでやんの。
「…実はね…。」
「ああ。」
突然真面目になった私に、ディオは合わせてか真面目に答えてきた。
「ついついその後そのデコとしばらく言い争ってたんだけど…。」
「…男にデコはかわいそうだぞ…。」
「まぁまぁ。 …で、ついついヒートアップしちゃってさぁ。」
「…おちょくるの上手いお前が?」
「まぁ、私にも怒りのポイントがあるのですよ。」
ふぅ…と、私は天を仰いで息を吐いた。
「…で?」
先を聞きたがるディオ。
ふふふふふ、と笑ってやったらますます期待を大きくさせみたいだ。
「実はねぇ…。」
「何だよ?」
「明日決闘することになったの。」
「…はぁ?!」
とても驚くディオだが、その声自体は結構低い。
二回も口を塞いだから、学習したのだろう。
やっぱりツッコミは凄いわ。
「一体なんで?」
「いや、売り言葉に買い言葉?」
「お前なぁ…。
で、決闘内容は?」
ディオは呆れながら私に聞いてくる。
「三人が一対一で一回ずつ戦うタイプ。
勝負方法は魔法と学問、それに模擬戦闘。」
「…お前は?」
「私にこの世界の魔法や学問、出来ると思う?」
私の聞いた言葉に、彼はしばらく考えてから、
「…無理だな。」
と言った。
微妙にムカついたが、まぁ付け焼刃でどうにかならないことは知っている。
だから代わりににっこりと笑ってみせた。
「でしょ?」
そんな私に、彼はただため息を吐いた。
「…けどな、お前戦闘なんて出来んのか?」
私はそんな彼に、右手を差し出して見せる。
そこには、少し長めの棒が二本とロープ。
「とりあえず、これどこかに吊るして叩いて、おさらいしとこうかなぁと。」
「お前はまったく…。」
と言いながら、彼は私の手から棒を一本取った。
私がきょとんとしていると、彼はそのまま少しずつ玄関から遠ざかっていく。
「ディオ?」
私が声をかけると、彼はぴたっと歩くのをやめた。
後姿だった彼は、そのまま顔だけ後ろを振り向く。
顔は、少し赤かった。
「…練習、手伝ってやるよ。」
そしてそのままスタスタと歩いていった。
…照れ隠しだろうか?
私はそう思うと嬉しくなって彼に駆け寄った。
そしてそのまま横について、並んで歩き出す。
「目立たないところ、知ってる?」
「ああ、練習に最適のな。」
「そりゃよかった。」
「…オレのコーチ、きついからな?」
そう言うディオに、私は彼の顔を見る。
そして不敵に笑って、こう言った。
「さて、どっちが先にへばるかなぁ?」
彼は、それを冗談だと取ったみたいだった。
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